別れたる妻に送る手紙他二篇
妻に去られた男の淋しさを綿々と訴えた手紙形式の小説。
去っていった女に対する執着と,その遣る方ない淋しさから待合で馴染みになった芸者とのいきさつをこまごまと書き綴った,秋江(1876‐1944)の代表作。
同時所収のその連作「疑惑」とともに,これほど深刻に,赤裸々に男の執着を描いた作品はない。
左千夫の門にいで、短歌写生の一道を追求した島木赤彦(1876‐1926)は「アララギ」の指導的地位に立って活躍し、その隆盛に貢献しつつ近代短歌の究極地を示した。
――冬空の日の脚いたくかたよりて我が草家の窓にとどかず――歌集「氷魚」(大正9年)で確立された歌風は、晩年「寂寥相」「悠遠相」というような東洋的な詩境に踏みいたった。
瀬戸内海の入江のほとりにある大きな旧家のおのおの性格の違った多くの兄弟の生活を描きながら,人間性の内奥を冷厳な目で探ろうとした「入江のほとり」。
恋のため家をすてて上京したお国が,甘い恋の夢も破れ,ついに妾生活に落ちぶれるが,昔の夢を捨てきれないという「微光」。
ともに自然主義文学の代表作といわれる。
斎藤茂吉は近代短歌の第一人者であり,また広く日本の近代精神を体現した文学者の一人である。
その作品は,深く人間性に根ざして微妙の情感を伝え,万人の心に共感をもたらす。
本書には全作歌一万七千余首のなかから一六九○首を精選し,秀作,問題作をことごとく収めるとともに,茂吉一代の歩みをあきらかにした。
数多い斎藤茂吉(一八八二‐一九五三)の歌論のなかから,著者の歌論の基本をなすもの,各時期の特色をあらわすもの,作歌との関連で重要とおもわれるものを中心に選び出し,執筆年代順に配列した。
歌論の中心となる短歌写生と短歌声調の立論には,具体的な一首一首の懇切な検討と,自身の作歌体験が踏まえられていて興味深い。
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